■ 柔道王者、ルスカ氏のこと

  昔の柔道オリンピック金メダリストに「ルスカ」という選手がいた。ヘーシンクとルスカと2代続けてオランダ出身が世界柔道の頂点にいた。ルスカは1972年ミュンヘンオリンピックで重量級、無差別級と金メダルを取って、2階級制覇の記録は未だ破られてない。
  このルスカが亡くなったとの訃報が載った。このルスカと私は実はいっ時 深い関わりがあった。1972年、オリンピックの終わった秋、私は彼のオランダの自宅を訪ね一夕親しく過ごしたのだ。取ったばかりの二つの金メダルをゆっくり眺めもした。夫人が本当に大事そうにメダルを扱っていた。
  その年の春先、ルスカはオリンピック目指して日本の各地で最後の稽古に励んでいた。私は大学を出て20代後半、まだ現役くらいの意識はあった。講道館の大道場で彼に胸を借りたが、それはもう立っておられないほど投げられた。それでも練習後声を掛けたら親しくなった。その上、誘ったら快諾されて、後日霞が関の旧郵政省ビル(現総務省)の地下に柔道場があったのだが、そこに連れてきて皆で稽古したりした。別...れ際、オリンピックで頑張れと励ましたうえ、一度オランダを訪ねたいと言ったら、是非遊びに来いと応えてくれた。
  オリンピックも終わり、ルスカ氏の優勝で余韻を楽しんでいた頃、通産省で国際外交部門にいた私はスイス・ジュネーブに3週間ほどの出張に出された。国際会議では普通の日は本当に忙しいが、週末はすることがない。 書き留めた電話番号で連絡したら喜んで「直ぐに来い」という。かくしてオランダ・アムステルダムまで足を伸ばし彼のマンションを訪ねた。本物の金メダルを手にし、また柔道世界一の人生を真そばで垣間見た。彼は柔道に強くなるには、柔道の稽古だけではダメで、サッカー、ラグビー、マラソン、重量挙げ、様々の身体能力を鍛えよと強調した。
  ここで改めてルスカ氏のご冥福を祈ります。あの稽古時、力強さとスピードは40年経ってもなお忘れ去るには凄まじ過ぎるものが私の体にはっきりと残っています。