■ 中村天風師に学ぶ

 中村天風という思想家、哲学者、社会指導者がいた。彼は九州福岡の出身で、私は昔からその存在を知り、多少はその影響は受けてきたが、このところ関わりの深い方と相次ぎ出会った。

 中村天風師は若き日、政治、経済に奔放に活動していたが不治の病とされた肺結核を患った。治療を求めてアメリカにも渡ったが挫折、生きる希望、明日への意欲も全て失った時、インドのヨガ術の大家と出会った。ヨガ聖人は肉体の病は全て精神的、心理的なものに発しており、徹底した精神改造こそ肉体の障害を解き放つと教えた。そのままインドのヒマラヤ山中に居着き3年の間ヨガ聖人の指導に耐えた。不思議に病は癒え、天風師は遂に別人に生まれ変わった。1910年ごろ、帰国。

 時折りしも世界は欧米列強が覇を競い、日本も後れじと富国強兵に励んでいた。国は戦時体制に突き進み、国民の精神的荒廃、社会的歪(ひずみ)はとりわけ若き世代を蝕んでいた。天風氏は実業界では成功を収めていたが、ある時忽然と立ち上がり、徹底した精神改革の必要性を説き始めた。その教えは「統一哲医学会」(1919年)として始まり、実に太平洋戦争の時代を乗り切り、今日まで国の指導者も含めて幾百万の国民の精神的啓蒙と道徳的教導に務めてきた。現在は「天風会」として全国的な活動を展開している。
 物質文明は限りなく進み、他方で精神社会が荒廃の淵にあるといわれる今、中村天風師の教えが日本人にとって一層の心のよすが、灯火となっている所以である