認知症の方の公正証書遺言

 

Q. 

  遺言は、公正証書の形で残せば安心だと聞いたことがあります。それでは、認知症の人でも、公正証書遺言の方式にすれば、後で遺言の有効性を争われる心配はないでしょうか?

--------------------------------------------------------------------------------- 

A.

  結論から言うと、公正証書遺言の方式で遺言書を作成したとしても、その当時本人が認知症であれば、遺言が無効とされるおそれがあります。以下に説明をします。

 

そもそも、遺言が有効であるためには、①遺言が法律の定める形式に従っていること(方式の遵守)と、②遺言者が遺言当時に遺言をする能力を有していること(遺言能力)、が必要です。

 

このうち、①(方式の遵守)に関しては、多くは自筆証書遺言の場合に問題になります。というのも、自筆証書遺言では、遺言の全文、日付、氏名を自署するなど遺言者自身が法律で要求される形式をクリアしなければならないため、方式違反が問題となりやすいからです。

 

これに対して、公正証書遺言の場合には、公証人が遺言者の希望を聞いて法律的に整理した内容の遺言を作成してくれることから、後々形式の不備を理由に遺言が無効になることはあまりありません。

 

よく公正証書の形で遺言を残せば安心だといわれているのは、公正証書遺言の場合には方式の不備を心配する必要があまりないからです。

 

もっとも、①とは別に、遺言が有効であるためには、②(遺言能力)も必要になります。遺言能力とは、「遺言の内容とその結果を理解する能力」をいいます。

これは、遺言者が遺言をするための十分な判断能力を有していなければ、遺言事項が本人の正常な意思に基づくものか疑いが生じるために必要とされています。

 

そして、遺言能力を有していたかどうかは、これを直接定めた法律の規定はないため、結局のところ、本人の年齢や病状等の医学的要素を中心に様々な事情を考慮して判断されることになります。

 

このように、遺言能力は遺言の作成方式とは別に求められる遺言の要件であるため、たとえ公正証書遺言の方式で作成したとしても、遺言能力を欠いていたことを理由に遺言が無効とされる場合があります。

 

実際の裁判例をみても、認知症であった遺言者が残した公正証書遺言について、遺言当時に遺言能力を欠いていたとして無効となった事例は少なくありません。

 

以上のとおり、公正証書遺言は遺言の方式を遵守できるという意味では安心ですが、認知症患者のように遺言者の判断能力に疑いがある場合には、遺言能力の欠如を理由に遺言が無効とされる可能性があります。

 

とはいえ、認知症の方の遺言が絶対に無効となるわけではありませんので、判断能力に不安がある方が遺言をする際には、事前に弁護士に相談することをお薦めします。

 

(また、これから遺言をお考えの方は、しっかりとした判断能力を有しているうちに遺言をしておくことが大切だといえるでしょう)。