ハンコのお話し2 ~判子とインク浸透印の違い~

 

 以前、このコーナーの「ハンコのお話し」で、判子を押すことの重要性をお話しいたしました。


 今回は、前回と少し視点を変えて、判子とインク浸透印の違いについての話をしてみたいと思います。

 

 インク浸透印(シヤチハタ社の商品であるXスタンパーや、他社のインク内蔵印など。一般的に「シャチハタ」の呼び名の方がとおりがいいかもしれません。)は、印面がゴム製で、内部にインクを充填して、朱肉を使わずに印を押せるもので、とても便利なものです。

 
 しかし、契約書に押印する場合は、ちょっと気を付けた方がいいかもしれません。
 なぜならインク浸透印は、印面がゴム製であるため経年劣化によって印影が変わったりします。

 

また、強く押したり弱く押したりすることで、ゴムが変形して印影が変わります。内蔵されているインクが浸透して印を作るため、場合によってはインクがにじんでしまうこともあります。


 はんこ屋さんで判子を作ってもらう場合、材質は、木、水晶、金属、石、動物の角、牙などいろいろあるかと思いますが、どれも滅多に欠けたり割れたりしない材質という点では共通しています。つまり、印影が変わりにくいのです。

 さらに、インクは朱肉に比べて紫外線に弱いと言われております。そのため、数年たつと印影が薄くなり判別できなくなることもあります。


 加えて、インク浸透印は、同型のものが大量生産されているから、印影から誰が押したものか推認できない、という点も挙げられます(もっともこの点は、他の判子でも同じですが…)。
 

 

以上のような点から、特に役所や銀行などでは、インク浸透印ではなく、朱肉で押す判子でなければダメと言われることが多いです。
 
 実際、裁判でとある書面が偽造されたとして争いになった事案では、問題となった書面にインク浸透印による印が押されていたのですが、当該書面に押されていた印影が、大量生産されている印章により顕出されたものであるから、そもそも、その印影により特定個人が押印したと推認することができない性質の印章により顕出されたものであると言えるので、被告が押印したことを推認できない、と判断された裁判例もあります(東京地方裁判所平成18年3月30日判決)。


 一般的に、裁判では、問題となっている書面上の印影から使われた判子がどれか特定し、次にその特定された判子の持ち主がいるはずなのでその持ち主を特定して、判子の持ち主がその書面の内容の合意をした(合意をした結果、判子の持ち主が法的にその書面に記載されている義務に拘束される)と段階を踏んで推定していくのですが、先ほどの裁判では、インク浸透印では誰の判子なのか特定できないから、被告が押印した(=書面の内容で合意した)とは言えないと判断されたのです。


 もちろん、この裁判例があるからといって、直ちにインク浸透印すべてが、法律上無効な印であるというわけではありません。そもそも、法律上は、使用する印鑑に制限はありません。


 しかし、印影が変わったり消えたりして、後に争いになる可能性があることを考えれば、やはり、契約書などの重要な書類に押す判子は、朱肉を押すものの方が無難でしょう。

 

以上